『本を出版したらどうなるの?ディスカバー・ザ・本の影響力

 

■この世に本のある限り

「コンサルタントは自分で自分を売り込むことが出来ない。コンサルタントにとって自らをセールスする手段は本を出すことです。本を書きなさい」

というようなことを田辺経営の創設者、田辺昇一氏のことばとして読んだことがあります。

ここで注目なのは“売れる本を書きなさい”とは言ってません。

コンサルタントが自分を売り出すための手段として本をとらえる場合、著書があることが大切で、どれだけ売れたのかは「おまけ」のようなものだと見抜いていたのでしょうか。

それとも、めったに売れるものではないということが身に染みていたのでしょうか。出版という大量生産のメディアは、社会に対して一定の影響力はあります。

しかしこのメルマガのテーマ(コンサル出版!本はあなたをメジャーにする)で見直してみると、影響の1番目は「本の持つイメージ」による効果、2番目が「多くの人の目に触れる」ことの効果です。

以下そのへんをご説明いたします。


■著書があるということ


大手出版社(前回のランキングでいうとAグループ)から30冊以上を出版しているベテランコンサルタントのM先生のお話を紹介いたします。

M先生が最初に本を出版したのは約20年前、幹部教育の本でした。担当はそのころ中堅の版元にいたまだ若き平編集者だった私、本多。

担当が悪かったせいか、売れ行きは今ひとつだったのですが、その本をきっかけにM先生は、その後ランキングAグループのN実業出版社から10冊以上、その他数社から20冊以上の著書を出されました。

このように一冊の本が出版されることの影響は、まず同業他社に及びます。ビジネス書の出版社は必ず他社の新刊に注目します。また、表面化しませんが同業のコンサルタントも注目したはずです。

その後が一般読者ですが、前者ほど注目されるかは神のみ知る領域。

M先生に聞きました。
「著書があるということで、どんなメリットがありましたか?」


M先生の答えをまとめると以下の通り。


1.箔がつく

2.クライアント(が本を読んでから決めるので)との契約がスムーズ、また契約後のトラブルも少ない

3.受講者(またはクライアントの従業員)へのインパクトがある


次に読者とのつながり「読者から直接仕事が来ましたか?」という質問をしました。

M先生の本で一番売れたのは5万部、平均すると各2万部くらいです。よって累計60万部以上が20年の間に書店に出回ったわけですから、決して少ない数ではありません。

さぞや仕事につながったものと期待が膨らみます。
お答え。

「読者からの直接依頼は来たことがない」

おお、なんと!仕事につながらないとは。

「だったら読んでもしようがねえなあ」とメルマガ登録を解除しようと思った方、すこしお待ちください。

話はまだ続きます。

「だって読者は私の連絡先わからないもの」

普通、著者の連絡先は本には出ていません。

特に品位の高いランキング上位グループの出版社では、奥付に著者の連絡先を入れることはあまりありません。そのため読者は著者に連絡しようと思うと、まず編集部に問い合わせます。

編集部は怪しい輩(例えば他社の編集者)から著者を守らなければなりませんのでいきなりM先生の連絡先を教えることはありません。

編集部を仲介して連絡を取ることになります。よって読者からいきなり連絡が来ることはないのでした。

例外は他社編集者で、どこからか調べて必ず直接連絡してきます。


■本は宣伝広告か


M先生よりも15歳くらい若いコンサルタントでT先生がいます。コンサルタントデビュー当時は、クライント2社、著書は当然ゼロ。

その一年後に出した最初の市販本を私が手がけたのですが、T先生によるとこの出版の結果、これまで縁のなかった新規クライアントが増え、また雑誌からの原稿依頼も増え、さらに雑誌の効果でクライアントが増えた、と仕事が核分裂反応的に拡大したそうです。

デビュー年後には、クライアント20社、年収四千万円を超えていました。

ちゃんと税金払ってたのか、いまでも心配です。
名古屋出身の人なのであんまりおごってもくれませんでした。

今は著書も5冊くらいになっています。著書が仕事に直結した例ですが、本自体はそんなに売れたものはありません(T先生が悪いんじゃない、編集が悪いんです)。多分累計で5万部もないでしょう。

5冊で5万部でも効果があるのか、60万部でも大したことないのか、本は薄く広く知らせるための広告手段としてどの程度のものか、M先生とT先生の例でご判断ください。

はっきり申しまして、ベストセラーを除けば出版よりもホームページを開いたほうが、「人の目に触れる機会」は多いでしょう。でも、本には「一冊の重み」があります。以下その話です。


■自費出版でもよいのか


量を求める宣伝媒体としてはネットに劣る本ですが、質の高い信頼につながる魔法が本にはあります。

英語で権威をオーソリティといい、著者の意であるアーサーと語源を一にすることからもわかるように、書籍は常に権威のイメージを身にまとっています。これを昔は「活字のマジック」ともいっておりました。

ここでM先生が示してくれた「本の影響」をもう一度見てみます。


1.箔がつく

これが本の持つ権威のイメージであり「活字のマジック」ですね。ただし、印刷・製本してあればいいというわけではありません。権威をまとうには、やはり信頼するに足るお墨付きが必要です。

「ちゃんとした出版社」から発行されているということも、その出版社が内容を認めたというお墨付きといえます。

あまり良い譬えではありませんが「東京スポーツ」から硬いビジネス書を出しても世間はお墨付きとは見ないでしょう。案外売れるかもしれませんが。

そうすると「ちゃんとした出版社」の説明が、少し必要ですね。

例えば、政府広報や能率協会や産能大、生産性本部などは間違いなく「ちゃんと」してますね。しかし出版社として見た場合、同業他社と較べパワーがありません。

出版が本業ではありませんから、どこの書店でも置いてあるわけではありません。もともと発行する部数が少ないのですから当然です。

やはり書店にあまり置かれていない出版社は箔が弱い。

一方、書店で幅を利かせていても、本づくりに品がないところも箔付けには一歩劣るところがあります。

また、あまりに専門的な出版社でも、アカデミズムの箔はつきますが、今度は本のつくりが難解過ぎ、敬して遠ざけられビジネスチャンスに結びつきにくいこともあります。

読者は素人ですが、この辺の微妙な部分を実に鋭く見わけます。甘く見ることは禁物です(とは私自身への戒めですけど)。


2.クライアントとの契約がスムーズ

クライアントがあらかじめ著書を読んでいるということは、著者の考え方・やり方を理解した上でご指名をいただいているのですから、スムーズなのは当然です。

逆の言い方をすれば、著書を読んで「わが社には向かない」と判断されれば、お声がかかることもありません。

これはもう本に自身の考え方ややり方が書かれていればいいことですから、自費出版でも一向に構いません。

人は値段のついた本をもらうほうがありがたがる、という傾向は確かにありますから、自費出版の本でも値段はつけておきましょう。

とはいうものの、著者の考え方ややり方に公平なる他者のお墨付きがあれば、説得力は一段高まりましょう。


3.受講者に対するインパクト

要するに「箔をつける」のと同じことですね。「権威の金屏風」の前に立つことで、仕事をやりやすくするわけです。


■まとめ


「本の影響力」とは、書店の売り場を徘徊している人や新聞の図書広告欄を開いている人に対してよりも、その一冊を手に取った人に対して及ぼす効果のほうがはるかに大きい。一冊の本は、読者の人生の糧にさえなりうる。

本当はそういう読者の声を紹介したほうがよかったのですが、長くなるので別の機会に改めます。

影響力が本よりもさらに強いのは、ライブの講演なり研修であり、その上は直接面談です。つまり「出合い」です。

したがってブックマーケティングはこの順番をとります。

読者は、本を読むことで親近感を著者に抱きます。次にセミナーや説明会などに参加して生の話を聞き、最後は直接著者に面談してクロージングされます。

大体、ブックマーケティングで売ろうとしているのは、家や健康食品、代理店の権利など、数百万円以上する高額の商品やサービス、あるいはシステムですので、手間ひまかけても採算はとれるのでしょう。

読者諸兄の中には、ここまで読んで来て「このメルマガでは、いままで売れない本はダメだっていってたよなあ。売れなくてもいいのか」という疑問を憶えられた方もいるのではないでしょうか。

「売れない本はダメ」なのは、すべての出版社にとってです。

その出版社から本を出そうというからには「売れない本」の企画では、通ることはありません。「売れそうな」企画、あるいは「これだけの数は売れる」企画であることが必須条件です。

ということで次回は、「本を出す」ための「売れそうな企画書」づくりの実務に触れてみたいと思います。

お題は「編集者が思わずやりましょうと言ってしまう出版企画書のつくりかた」<実務編>です。

ご期待ください。

 


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